イギリス、泥舟から逃げ出す
2011-08-04


昨晩(8月3日深夜)から各紙がイギリス・セラフィールドにあるMOX燃料工場の閉鎖を伝えています。
朝日新聞
毎日新聞
北海道新聞

MOX燃料(Mixed oxide fuel)というのは、ウラン・プルトニウム混合酸化物のことで、いわゆるプルサーマル発電のための燃料。言い換えれば、プルサーマルでは、たいへん毒性が強く核兵器にも転用しやすいプルトニウムを核燃料の一部として使用するということです。

今までに、日本でプルサーマル発電を導入している原子炉は、玄海3号炉(九州電力)、伊方3号炉(四国電力)、高浜3号炉(関西電力)と今回の事故で破壊され、大量の放射性物質をばらまいた福島第1の3号炉です。
この内、今現在、営業運転をしているのは高浜3号炉だけで、玄海3号炉と伊方3号炉は定期点検からの再稼働の見通しが立っていません。この二つの原子炉に関しては、具体的な安全性の問題だけでなく、やらせメールや説明会への電力会社からの動員が明らかになり、「誰がプルサーマルに賛成したのか?」「そもそもプルサーマルに賛成する世論はあったのか?」という問題にまでなっています。

近くプルサーマル発電を導入する予定になっているのは、浜岡4号炉(中部電力)、泊3号炉(北海道電力)などで、中電も北電も、今回の報道にかなり困惑しているようです。

世界的に見ると1960年代にヨーロッパ各国やアメリカでプルサーマル発電が積極的に進められた経緯がありますが、フランス以外は撤退の方向。今、プルサーマルに積極的な立場を取っているのは、日本とフランスだけです。

ところで、MOX燃料に使うプルトニウムは、どうやって手に入れるのでしょうか?
プルトニウムは使用済み核燃料の中に1%ほど含まれています(原子炉内でプルトニウムができる仕組はこちらへ)。これを再処理工場で取り出して、MOX燃料工場に送っているのです。二つの工場は近い方が便利なので、イギリス・セラフィールドにも、再処理工場とMOX燃料工場の両方があります。

現在、再処理工場または再処理施設を稼働させている国は、フランス、イギリス、ロシア、インド、パキスタン、中国、北朝鮮、アルゼンチン、イスラエル(?)、そして日本だけです。日本で稼働中なのは東海再処理施設ですが、実験的な設備なので、大した処理能力はありません。そこで今、青森県六ヶ所村に規模の大きな再処理工場を作ろうとしているのです。試験運転中ですが、一方で、根強い反対運動が続いているのはご存じの通りです。

さて、「再処理工場」と言われると、危ないものを処理してくれそうで、何となく聞こえがよいですが、元々は、核兵器を作るための施設です。
ウラン原爆(広島型原爆)を作るためには、天然ウランの中に0.7%しか含まれていないウラン235の濃度を90%以上にするという大変に難しい濃縮作業が必要です。
一方、プルトニウムは、使用済み核燃料の再処理で抽出できるので、プルトニウム原爆(長崎型原爆)はウラン原爆に比べると比較的簡単に製造できるのです。インド、パキスタン、北朝鮮、イスラエル(?)の再処理工場は、核兵器と直接結びついています。フランス、イギリス、ロシアにしても、核兵器製造のために再処理の技術を高めてきたことに間違いありません。アメリカが、今現在、再処理工場を稼働させていないのは、プルトニウムがテロリストに渡るのを恐れているためと言われています。

もう一つ、今回の工場閉鎖の意味を考える上で忘れてはいけない視点があります。

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